タイ裁判報告

「証拠指紋」のトリックを法廷で暴く 99/03/25

田中被告(左)を励ます。西垣内弁護士(右)と宮崎


本日、3月25日チョンブリ裁判所において被告、田中義三の証人として2人の日本人が証人として出廷し、証言をおこなった。午前中にまず山際永三氏が証言に立ち、米国財務省シークレット・サービスがカンボジアのプノンペンにあった児玉章吾氏の事務所から押収したとしている1238枚の偽100ドル札の1枚から検出されたという田中義三の右手人差し指の指紋について、日本側で行った専門家の鑑定報告をふくむ複数の鑑定・実験結果について報告した。引き続き午後の公判では、検出された右手人差し指の指紋が、逮捕後にタイの警察でとられた田中の指紋をなんらかの方法により複製しドル札に転写されたものである可能性が高いことを示すために、すでに日本において行っておいた実験過程を千葉毅氏が法定内でコンピュータを使用して再現した。

千葉氏よる指紋のコンピューター分析

午後7時20分に始まった記者会見では、山際永三、西垣内堅佑、宇崎喜代美、宮崎学、千葉毅の各氏が以下のような発言を行った。

宮崎学

まず、最初に今日証言を行った山際さんに今回証言の意義などについて話してもら
い、次に西垣内さんに日本の弁護士として本日裁判を傍聴してどのように感じられ
たかを話していただきます。

山際永三


この偽ドル札事件での田中義三氏の関与を示すものとして裁判所に提出されている
唯一の物的証拠である『偽ドル札から検出された指紋』が、裁判所の中に証拠物と
して保管されており、たとえば日本に持っていって具体的な検証を行うということ
が不可能であり、被告側にとって大きなハンデとなっている。われわれは現在の指
紋検出に関する研究の成果もふまえて様々な側面から検討した結果、田中義三の逮
捕時にとられた指紋に固有な特長と考えられるものが、
押収された偽ドル札から検
出された指紋にも見られることから、偽ドル札から検出された田中の指紋が逮捕時
に採取された指紋のコピーではないかと考える
に至った。そこで、我々は日本にお
いてこれら2つの指紋画像をコンピュータに取り込んで重ね合わせる実験を行った
ところ、
極めて不自然と言えるほど一致することが確認された。さらに、コンピュ
ータに取り込んだ指紋画像を紙の上に転写できるかどうかを確かめるために、人間
の汗と同じような成分の「人工的な汗」を調製して、それをインク代わりにしてイ
ンクジェット・プリンターで紙に転写し、それを一般的に指紋検出に使われる数種
類の試薬を用いて検出(あぶり出しのように、目に見えるように浮かび上がらせる
)した。こうしたわれわれの作業結果をまとめて実験報告書とし、それを法廷に提
出するとともに、私と千葉氏が本日法廷において証言する機会を得た。本日の公判
を終えてみて、指紋問題については大分進展があったと感じているし、裁判官へも
われわれの証言の意図はしっかり伝わったと信じている。

バンコックのホテルでの記者会見。左から山際、西垣内、宇崎、宮崎

西垣内堅佑

弁護士という職業柄、傍聴席に座るのは稀であり、興味深い経験でした。裁判を傍聴して率直な感じとして、田中義三氏の無実・無罪の確率が高いと思いました。これまでの裁判全体の流れは必ずしも把握していませんが、指紋の照合実験というような客観的・科学的な立証は裁判所としても重視するはずですので、今回の公判は重要な意味があると思います。裁判が始まったばかりの頃は被告にとっては絶望的な状況であったと聞いていますが、最後の段階で無罪の方向が出てきているように感じました。偽ドル札に後で指紋を作り上げたという被告側の主張を聞いて、それならば証拠となっているその偽ドル札そのものを鑑定すればよいのではとも思いましたが、よく伺ってみるとそのような作業がこの国で許可されることは極めて難しいと知り、今回の立証のようにかなり迂回した形で真相に迫ろうとしていることがよく理解できました。被告側の主張のように偽ドル札の指紋が「作られたもの」であれば、検察側の証拠に対する疑念がわくことになるでしょう。日本のように「疑わしきは罰せず」ということであれば、田中氏の無罪は確実だと思います。本日、法廷で再び田中氏の指紋を採取しましたので、これを使って再度立証を行えば、検察側のデッチ上げの証拠を補強するものになるでしょう。タイの法廷の雰囲気は意外とラフ(注:しゃっちょこばっていない、カジュアルという意味か)な感じを受けましたが、裁判官が非常に真摯な審議を進めてていることをみて、無罪の方向に期待ができると思いました。最後に、田中氏が足枷・鎖を装着されて出廷してきたとき、こちらの国の被告人の取り扱い方が私の目には異常なものに見えました。


宮崎学
田中義三が着けさせられている足枷・鎖については、われわれも当局にはずすよう
に従来から働きかけており、本日の公判では時間的にできなかったものの、はずさ
せる方向で準備しています。この点については、宇崎喜代美さんから詳しい説明を
してもらいます。

宇崎喜代美


田中さんが足枷を着けられてから1年3ヶ月ほど経ちます。足枷の問題は私が最初
に取り組んだことのひとつで、憲法上ならびに人道上の観点から看過できない問題
として、日本大使館に要請して刑務所にとりはずしの要請をしてきました。しかし
、刑務所側からは「ノー」という返事しかもらえませんでした。今年の1月にタイ
国衆議院・人権委員会に訴えを提出したところ、
委員会から「足枷は憲法違反の疑
いがあるので、調査します」
という返事をいただきました。

人権委員会に書類を提
出したのは2月17日でしたが、今月(3月)12日に人権委員会のメンバーと私
が刑務所長ならびに刑務局長と会談を持つことが出来ました。タイの官僚組織の動
きとしては異例なほどの迅速さでした。当日は、人権委員会のメンバーと私が刑務
所の監房施設の中に入って、田中さんら囚人にインタビューすることも許されまし
た。一民間人のしかも外国人(しかも女性)が刑務所内部に立ち入ることなど、こ
の国では考えられもしないことなので、囚人達も驚いていたようです。しかし、こ
の視察があるということで、それまで長いことなくなっていた食堂のテレビが突然
戻ってきたりしたので、私たちの訪問は囚人たちには歓迎されていたようです。

しかし、刑務所長にとってはかなりショックな出来事であったようで、その仕返しか
、この視察の直後に児玉さんがバンコクの刑務所に移されてしまったことは、非常
に残念でなりません。人権委員会の人達も、委員会自体は命令権限を持っていない
ので、日本大使(館)からの正式な要請でもあれば少しはいい方向にいくかもしれ
ないと言ってくれていますが、
今のところ日本大使館からの積極的な働きかけを引
き出せるに至っていません
しかし、それとは別にタマサート大学の法律相談所に
相談したところ、足枷の問題は刑務局の管轄事項だが、憲法違反ということで行政
裁判に訴える方法もあると教えられました。行政裁判ではありますが、進行中の裁
判のなかにおいて訴えを出すことも出来ると言うことです。われわれのケースでは
(チョンブリ)地方裁判所へ訴えを出し、そこで判断できない場合はさらに最高裁
で審議されることになります。

そこで、本日、午前の公判開始前にウィロート裁判
官に私から訴状を提出しました。すると午後の公判の最後に、
裁判官が「今月29
日に田中被告、弁護人、チョンブリ刑務所長、検察、刑務局を呼んで、この裁判所
において足枷問題の審問・事情聴取を行います」
と発表がありました。裁判官が本
当に真摯にこの裁判に取り組んでいることをよくあらわした迅速な決断でした。


  本日の公判で弁護側が行った立証は、タイ国の裁判史上において『歴史的』な
ことだったと思います。弁護側証人の証言もぶっつけ本番で行ったものでしたが、
弁護人も証人も本当によくやってくれました。私は、今回は特に裁判官が裁判記録
として何を記録するかに最も注意を払いました。(注:タイの裁判では、尋問や証
言のたびに裁判官自身がカセットテープに証言内容を吹き込み、それを書記がタイ
プしていき、公判の最後にタイプされた証言内容をもう一度裁判官が読み上げ、証
人がそれに署名する方式になっている)証拠として提出された偽ドル札上の指紋が
指先のほうが消えていたり、
元となったと思われる指紋カードに存在した文字やパ
ンチ穴を消したと思われる箇所の指紋がやはり消されているといった極めて不自然
な指紋であることなどを裁判官はしっかりと記録していました。


  
それに対し検察側の反対尋問では、私たちが予想したとおり、証人が指紋鑑定
についての証言をするには「不適格」な人物であると指摘しました。しかし、証人
が行った立証の詳細さにくらべて、検察側の指摘はいかにも弱いと感じられました
。また、ウィロート裁判官も、「立証は専門家でなければならないということはな
い」と以前からはっきりとおっしゃっています。


  
本日の公判を終えてみて、「よく乗り切った」というのが私の正直な感想です
。田中氏の事件関与の証拠として検察側が出したさまざまな根拠(盗聴テープなど
を含む)の80%はこれまでに弁護側がくずしていると思います。そして今回は残
っていた指紋の問題について立証できました。タイの新憲法でも推定無罪はやはり
無罪なのです。


宮崎学


今後の公判予定としては、4月1日に本日の指紋鑑定の証言の続きを行い。4月に
はその後に3回公判が予定されています。そして5月6日予定されている出入国管
理事務所の役人を喚問していくつかの点を確認すれば、結審ということになると思
われる。


この後に、本日の公判のもう一人の証人となった千葉毅氏が、法廷で行ったコン
ピュータによる指紋画像の重ね合わせ実験を再現してみせた。法廷ではモニターを
裁判官と検察側席に向けて実演したため、傍聴席では実演証言の内容がわかりにく
いところがあったが、裁判を傍聴した人も記者会見の席上でのこのデモを見て、や
っとナルホドと納得がいった様子であった。

【電脳キツネ目組】おはしり係り Triking報告

裁判を多方面から支援する【電脳キツネ目組】一同
いずれも一芸の持ち主....というか鶏鳴狗盗的集団


というても、おっさんばっかりやないんやで