著者に会いたい - 朝日新聞 96/11/17 読書欄より -


『突破者』- 宮崎学さん(51)-

一橋文哉著『闇に消えた怪人−−グリコ・森永事件の真相』と宮崎さんの『突破者』は今、多くの書店で並んで平積みされている。前者で、宮崎さんは「最重要参考人・M」「暴力団組長の息子ながら、学生時代に左翼で活動したという"変わりダネ"で、その左翼から右翼、暴力団に跨(また)がる広範囲な交遊関係もあって、事件当初から捜査本部に厳重にマ-クされていた人物であった」と言及されている。

というより、あの「キツネ目の男」に擬せられた人と言った方が分かりやすいだろう。で、「結局、宮崎さんはシロなんですね」と切り出すと....

「九一年ごろまで、警察は私のことを疑っていた」

事件に対する推理は、こうだ。「現金強奪は、あくまで陽動作戦。脅迫で世間を騒がせながら、裏取引と株価操作を行うのが真の狙いだったのではないか」

四百六十九ページの大著は、凡百のエンターテインメント小説よりずっとスリリングで、過激。かつ、ある経済誌の書評を引用すれば「日本経済の闇映す裏の論理」ということになる。

余りに" 過剰 "な意味をしょいこんだ人生だ。京都のヤクザ組織のボンとして生まれ、関西で言うところの" ごんたくれ "の少年蒔代。高校時代にマルクス主義に傾倒、早大時代は、「あかつき部隊」の名で伝説的に語られている日本共産党の非公然ゲバルト部隊の現場責任者として早大、東大闘争に関与…。

「週刊現代」での記者生活。実家の解体業を継ぎ負債二五億円を抱えての倒産。バブル期には地上げ屋。

「で、今は何を?」「無職渡世。馬鹿(ばか)な五十年の人生をつづってみただけです」

すごみをカンジさせる人だが、宮崎さんの筆致は、貧困と差別にあえぐ人たちに優しい。「自分のような者の居所は、日本にはなくなってきた」。「水滸伝」に似た盟的ネットワ-クの構築を夢想し、いま、目は東アジアに向いている。(南風社1800円)

渡辺 淳悦