石油卸商・泉井純一氏の政治家への献金問題が臨時国会を騒がしている裏で、こっそりと?「悪魔の法律」が生まれようとしている。その名は「組織犯罪対策法」。警察による盗聴が合法化されるだけでなく、その他、拡大解釈されれば危険な内容ばかりなのだ。こんな法案通していいのか?

 この『組織犯罪対策法』(骨子は最後の表を参照)とは一体、どんな背景と狙いを持っているのか。まず、暴力団対策法施行時、その導入に真っ向から反対した弁護士・遠藤誠氏の意見から。

 「この法律が成立した背景には、オウム事件、オレンジ共済事件など組織ぐるみの犯罪が頻発したことが挙げられるでしょう。加えて、暴対法があるにもかかわらず起こった山口組の内部抗争事件などへの焦りもあるでしょう」

 組織犯罪対策法が主に対象とするのは、オウムのようなカルト宗教団体、あるいは山口組を始めとする広域暴力団ということ。
 「なーんだ。じゃあ、オレたちとはあんまし関係ないじゃん」と思っていると、これが大間違いなのだ。
 例えば〃盗聴〃。要綱にあるとおり、犯罪捜査のためなら電話やパソコン通信の盗聴まで裁判所の令状さえ取ればなんでも許されてしまう。
 これまでも「違法であるはずの盗聴を警察は極秘に行なっている」といわれてきた。発覚した例としては、日本共産党国際部長の自宅の電話を神奈川県警が違法に盗聴していた事件はあまりにも有名。
 
 しかし、この法律では、〃犯罪の疑いアリ”と裁判所が認めれば堂々と盗聴(妙な表現だが)できてしまうのである。
 「けど、オレたちは組織じゃないもんね」と言っても通らないのがこの『組織犯罪対策法』の巧妙な部分でもある。「ふたり以上の人間が関わった犯罪であれば、それは『組織』と見なされます。また、実際にふたり以上が関わっていなくとも、〃犯人がもうひとりいそうだ”という捜査当局の勝手な思い込みがあれば単独犯でも盗聴の対象になり。得ます」(前出・遠藤氏)

 例えば、ヤクザともオウムとも無関係な、法的には健全な生活を送る若モノがいたとしよう。彼は金髪に染め、ービァスをばんばん入れ、ヘビメタ風スタイルで街を歩いてる。そんな彼を「あいつはドラッグをやってるっぽい」と警察が疑えば、それだけで盗聴の対象になり得るのだ。

 さらに、彼の友人であるキミが冗談ででも「オレにもハッパ分けてくれよ」とうっかり電話でバカ話しようものなら、今度はキミも盗聴の対象者になってしまう。

 あるいはキミがナイフ・マニアの友人から「これ一お前にやるよ」と、でかいアーミーナイフをもらったとする。手ぶらだったから上着のポケットに入れて家に帰ろうとしたその途中、運悪く警官の職質にあってしまった。
 「ん。このナイフはなんだね?」と聞かれ、つい緊張して「え、あの、その……」などとしどろもどろな対応をすると今度は銃刀法違反〃疑いをかけられ、やはり盗聴が始まることだってある。
 モデルガン・ショッブやアーミー・グッズ店を経営するあんのん人や客だって安穏としていられない。店内にディスブレイされている法的にはなんの間題もないはずのモデルガンが警察から「危険な道具」と目をつけられれば、店主の電話は盗聴される可能性があるし、客であるキミも間い合わせの電話すらかけられなくなる。

 さらに。キミがよく行くキャバクラに勤めるフィリビン人の女の子が入管法違反(オーバーステイ)の疑いで捜査対象になっていれば、やっぱり盗聴の可能性アリ。首尾よくキミが彼女の自宅の電語番号を聞き出して、その電話で「オレと援助交際しようよ」などと持ちかければ今度は売買春の疑いでキミんちの電話にも盗聴の魔の手がー。

 な、恐えだろ?日常の中の何気ない行動、ちょっとしたイタズラ心や冗談までが盗聴の火種になってしまう。それが『組織犯罪対策法』なのである。

【思想統制につながる恐怖の法律】

「暴対法(暴力団対策法。93年施行)はヤクザ組織全体に中止命令を出すものでしたが、今度の法律での〃盗聴”などは個人に対して行なうものです。『組織犯罪対策法』と称していますが、これはもう『盗聴法』と呼んだほうがいいくらいです」

 組織犯罪対策法に、そんな異議を唱えるのは、やはり弁護士の李宇海氏。

 キャバクラに通わずとも、キミが不法滞在の外国人を支擾するサークルや市民運動グルーブに所属していたり、あるいはそういう活動をする友人がいれば、キミやキミの友人の電語が盗聴される恐れもあるってことじゃないか?「さすがにそこまで替察がやるかどうかはわからないけど、可能性としてはあり得ますよね」(李氏)

 自分も盗聴されるかも知れない。じゃあ、そんな危険が少しでもあるところには今後、一切関わらないようにしよう--組織犯罪対策法の下ではそんなく行動の自粛や萎縮ム一ドがどんどん広がりかねない。息苦しいといわれている今の日本がもっと窮屈になっちまう。そんな悪い予感ばかりが増幅してしまう一方で、「それは取り越し苦労」と言わんばかりの声もある。

 「あらゆる反社会的なものから市民を守るのが政治の責任。もはやイデオロギー対立の時代ではなくなっており、誤った方向に法律が使われる心配はない」

 これは、法案を成立させたい側である、治安対策特別委員会の中山正暉代議士(自民党 近畿比例区 大阪市東淀川区豊里6-6-3)の組鐵犯罪対策法導入についてのコメントだ。

  それに対して、ジャーナリストの大谷昭宏氏はこう反論する。「この法律は、暴対法でも、その改悪でもヤクザ対策がうまくいかなかったから作ろうとしている法案です。だけど、今どき盗聴なんかに引っかかるのは麻薬を売る末端のデキの悪いヤクザくらいなもので、少し頭が回るヤクザなら恐喝だって電語じゃやりませんよ。そういう意昧では『なんのための法律なんだ!?』と言いたいですね。

 だから恐いのはやっぱり

〃思想犯の弾圧”なんですよ。今は麻薬や強盗の捜査に使う予定の法律だとしても、やがて日本が『憲法改正』.『徴兵制導入』などと言い出した時、その流れへの反対派をマークする目的で使われるのが恐い。

 今のところは〃影響力の少ない法律〃だけど、やがて大きなことに使われるかも知れないことを考えたら、将来を見据えて反対を唱えなければならないと思いますねL暴対法、改正暴対法と〃乗り越えてきた”ヤクザには『盗聴OK』である新法も効かず、むしろ市民社会の側に行使されるのではマというのが大谷氏の懸念である。

 この『盗聴』に関する条文の中には、次のような驚くべきものも含まれている。すなわち、被疑者宅にかけてきた人たちの電話番号、住所、氏名などの探知については捜査令状は必要なし。加えて盗聴終了後は、電話をかけてきた人全員に『あなたの会話を盗聴しました」という通知が出ざれるというのだ。
 「電話をかけた人は被疑者に対して不信の念を抱くことになり、人間関係はズタズタになりますよ。組織の破壌も簡単にできる。よほどスジ金入りの人でなければ、この〃苦痛”には耐えられ支せん」(前出・遠藤氏)

 さらにこの法案では、交された会話の中で捜査対象外のものであっても犯罪に関する。ことがあれば、それについても捜査することが許されている。その追加捜査の規定は盗聴を行なう場合よりも甘く、軽犯罪以外のほとんどの犯罪であればよい。この中には『計画されるもの』も含まれるため、やっていない犯罪でも、それを匂わせるような会話があれば、それで捜査対象となってしまう。極端な話、「あいつ、生意気だから、たたんじまおう(笑)」と軽口を叩いただけで被疑者となる可能性があるのだ。キミが、盗聴されている被疑者に電話をする。そこでの会話が『犯罪の計画』とみなされるものであれば今度はキミの部屋の電話も盗聴の対象に。そして、キミの家に電話をしてきた別の友人のキツい冗談がまた新たな盗憾のきっかけに...、
 このようにく盗聴と被疑考の輪Vが無限に連鎖することが現実に起こり得るのである。げに恐ろしき『組織犯罪対策法』--

【結局、太るのは警察だつた】


この法案には、骨子にあるとおり〃マネー・ロンダリング(犯罪で得た金を洗浄する行為)防止”という条項も含まれている。〃洗浄”の一般的な方法は銀行への預金から始まることが多いが、その際、窓口で不正な金を預かった銀行員も洗浄に協力した者として遠捕されることになったのだが、それに付随して不穏なくウワサも流れている。

 どういうものかと言えば、銀行員は自分が逮捕されるのを避けるため、出所不明な多額の金を預かる場合、「このお金はどうしたのですか?」とか「あなたの身元を証明する者を持っていますか?」と、相手の身元や金の出所を確認することができるというのだ。
 「そんなことをしたら銀行の客が減ってしまいます。〃行員も捕まる”というのは銀行に対する圧力ですが、〃マネー・ロンダりングの片棒を担いだらパクるぞ”ということあまをネタに警察から銀行への天くだ下りは増えるでしょうね。まあ、国家から金融機関に対する合法的な恐喝みたいなものですな」(前出・遠藤氏)

 
新法が警察OBの天下りにも活用されてしまう--。

 作家の
宮崎学氏も同様に指摘する。「今回の法案は〃新風営法→商法改正→暴対法→組織犯罪対策法”という流れで捉えたほうがいいと思います。まず新風営法でセックス産業を完全に監視下に置き、保安課がそこからの金をたかるという構図ができあがった。次に商法改正で『総会屋を根絶やしにする』はずなのに、一向にその効果を上げておらず、逆に総会屋の手口は巧妙に、金額は大きくなってきている。その一方で、総会屋対策の名目で警察OBを企業に入社させている。『味の素』の事件などはその典型です」

 暴対法も暴力団の生きていく環境を根絶するのが狙いだったが、緒果的にシノギのできなくなった弱小団体が巨大組織の傘下に納まり、寡占化を加速させてしまった。地下に潜ったヤクザはマフィア化し、凶悪事件の検挙率はガタ落ちーこれまでの流れをそうとらえる宮碕氏は、組織犯罪対策法も当初の狙いどおりには機能しないだろうと見る。
 「これ以上、監視を増やして何を調べるというのか。組織犯罪対策法は〃ミニ破防法”のような法律ですよ。この法律で達成できるのは緒局、警察権力の増大ということだけじゃないでしょうか」

 実際、宅見勝・山口組若頭殺害事件が、この法案を成立させる世諭の〃追い風”となっている。それは「殺人集団・オウムは市民社会の敵だ」という掛け声が破防法の適用を後押ししようとしたあの時とそっくりである。「憲法の『通信の秘密』が破られようとしているのに、その危険性を指摘すべきマスコミもありきたりのことしか言っていない。重要なのは、このあとどうなるのか、将来、どういう使われ方をするのかといらた本質の部分を見極めなければいげないということなんです」(前出・大谷氏)

 この”危険な法律”は、早ければ今臨時国会で通過、来年4月にも施行となりそうだ。「1億2干万人が警察の監視下に置かれると思って間違いない。電話で冗談さえ言えない状況になるわけですから、もうこれは警察の〈ファッショ〉ですよ」(前出・遠藤氏)

 この最終案からは外されたが、当初の法案には「司法取引」の規定も入っていた。これは、犯罪の事実を証言することを条件に、証言した共犯者の罪を軽くするもの。つまり、「密告したら罪も軽くしてやる」ということなのだ。もちろん、証言は匿名も可。国が密告を奨励するどは…:。o
 空中を飛び交う携帯やPHSの電波を盗聴(正確には傍受)するマニアも、この法案に比べりゃ可愛いもんだ。監おび視と盗聴に脅えなければいけない生活。オレたち、それだけは絶対にゴメンだからな!

〔組織犯罪対策法・要綱骨子]


●団体の活動として、殺人、誘拐、賭博などの罪を犯した者の刑を重くする

●犯罪によって得た利益で株を取得するなどして、会社の経営を支配する行為を処罰する

●犯罪によって得た収益のうち、追徴・没収の対象となるものを拡犬し、隠匿を防ぐための制度を整傭する

●殺人や放火、薬物・銃器犯罪などの捜査のため、裁判所の令状に基づいて、電話やコンピュータ通信を傍受できるようにする

●証人やその親族を保護するため、住居などを明らかにしないよう関係者に配慮を求め、法廷での尋問を制限できるようにする